2020年 2月11日
エネルギー政策再考の機

災害想定の甘さに警鐘

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)について、広島高裁が1月17日、運転を差し止める仮処分決定をした。原発の安全性を巡り伊方3号機の運転が禁じられるのは2度目。活断層の調査と火山の被害想定を不十分と指摘し、原子力規制委の審査にも誤りがあったと判断した。各紙は「司法の警鐘」として重く受け止めるべきだと訴える一方、科学的知見に基づく行政判断を覆す決定に疑問を示すものもあった。運転計画の行き詰まりや原発コスト上昇の面からエネルギー政策の見直しも論じられた。

他原発への影響指摘

 広島高裁の判断について、愛媛は「佐田岬半島沿岸の活断層について存在しないと主張した四国電力の調査は不十分で、主張を問題ないとした国の原子力規制委員会の判断には誤りがあると指摘した」と伝え、「行政の判断に追従せず、独立する司法の責務を果たした」と評価。「災害想定の甘さに対する司法の警鐘」と意義付けた。

 もう一つの争点である阿蘇山の噴火のリスクについては、神戸が「より被害が大きく発生頻度が極めて低い『破局的噴火』を重視した前回の高裁決定は、18年の異議審で退けられている。今回は火山リスクを現実的な規模で再評価した上で、四国電の甘い想定を前提とした規制委の判断は不合理とした」と分析した。

 熊本日日は、阿蘇山噴火の危険性をどう見るかは九州電力の玄海、川内両原発にも関わると指摘。「政府は、『世界一厳しい』とする規制委の審査合格を世論を納得させる切り札とし、伊方3号機を含む5原発9基の再稼働を実現してきた。しかし、その審査内容や規制基準に穴があるとなっては、再稼働に前向きな原発行政は根本から揺らぐ」と他原発への影響を予測した。

 朝日も「新規制基準に沿って進められている電力会社の安全対策、およびそれを認めてきた原子力規制委員会の判断に疑問を突きつける司法判断」として、「異見にも謙虚に耳を傾け、新規制基準とそれに基づく対策を不断に見直していく。そうした姿勢を欠けば、いくら『基準も審査も万全』と訴えても納得は得られない」と説いた。

 毎日は発電所の立地に着目し「伊方原発は、他の原発に比べても、安全面で大きな問題を抱えている」と指摘。細長い佐田岬半島の付け根に位置し「事故が発生すれば、半島の住民は逃げ道を塞がれかねず、避難できるかどうかが不安視されている」と追及した。

 中日・東京は「電力事業者側の調査データに多くを依存する規制委の審査の在り方」も問題と捉え、地震や噴火のリスクが疑われる限り「司法も『安全』を最優先に判断を下すべきではないか。『疑わしきは住民の利益』であるべきだ」と訴えた。

独自の判断に疑問符も

 一方、読売は「裁判官が独自の解釈と判断で、結論を導いた印象は拭えない」と指摘。「原発の安全審査に関しては、高度で最新の科学的、技術的知見に基づいた行政側の審査結果を尊重する司法判断が、これまで積み重ねられてきた。今回の高裁決定は、こうした枠組みからはみ出すものと言わざるを得ない」と疑問を呈した。

 産経も「司法の見識が疑われる」と批判。同じ高裁で約2年のうちに判断が分かれたことを「裁判長が異なるとはいえ、高裁としての定見の欠如ぶりは、看過できない」と断じた。「仮処分が脱原発の闘争手段になりつつあることも気にかかる」と指摘した。

 日経は「3年半ほどの間に、運転開始が決まったり中止になったりするのを繰り返す事態は健全とはいえない」と懸念を示し、「国のエネルギー基本計画は、原発を重要な基幹電源と位置づけている。しかし運転計画が定まらない原発が増えれば、エネルギー政策が行き詰まりかねない」と危惧した。

 政府は電源構成のうち原発を20~22%に引き上げる方針だが、山梨日日、山陰中央、佐賀などは「規制委の審査や安全対策工事の長期化で、この原発比率の実現は困難になっている」「今回の司法判断を日本のエネルギー政策を改めて考える機会にしたい」と訴えた。

 岩手日報は「原発に関する費用が膨れている。再稼働には安全対策強化の大きな費用がかかり、廃炉が決まっても相当額の維持費を要するためだ。再生可能エネルギーなどと比較した発電コストの優位性に疑問符が付く」中、「電力業界は今後、どのように展開するのか」と問い掛けた。

 高知はプルサーマル発電に触れ、1月に初めて取り出された使用済みのプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料について「再処理施設は国内になく、再利用せずに核のごみとして処分するにしても最終処分場がないのが現状だ。行き場のないこうした使用済み燃料もまた原発の安全上の脅威」と強調した。(審査室)

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