抑制的運用の担保なし

「緊急事態」 曖昧な発令要件

 新型コロナウイルスによる感染症を対象に加える改正新型インフルエンザ等対策特別措置法が3月14日、施行された。各紙は施行の前後に社説で取り上げた。都道府県知事に大きな権限を与える緊急事態宣言の発令を巡り、その仕組み、国会の関わり、事後の検証などさまざまな角度から論じた。

場当たり的対応の産物

 徳島は「現行法を適用しなかったのは、新型コロナウイルスの脅威を見誤ったためだろう。日中関係への影響や景気減速の懸念がある中で、タイミングを失った。今さら感を拭うため、慌てて法改正を言い出したとしか思えない」と論じた。採決では与党のほか、立憲民主党や国民民主党などが賛成した。読売は「危機への対応で、与野党が協力した意義は小さくない」と指摘。北海道は「立憲などには、特措法が民主党政権で制定された経緯もあってか、徹底審議を求める姿勢が欠けていたのは残念だ」とした。

 緊急事態宣言が可能になることについて、デーリー東北、山口などは「政府の裁量で強権を発動し、私権を制限することが可能となる措置への懸念もある」と指摘。産経は「国民の生命と健康を守り、経済社会の秩序を維持するには感染拡大を阻むことが必要だ。それなくして、国民の私権を守ることは難しい」と主張した。

 「感染症拡大を止められないという最悪の事態を想定すると、強力な法整備は必要といえる。ただ、その力は抑制的で限定的でなければならないはずだ」としたのは静岡。高知も「備えは必要だろう。しかし、政府の裁量による私権制限にどう歯止めをかけるのかは依然、懸念が拭えない」とした。

 山形、茨城、山梨日日、岐阜、日本海、山陰中央などは特措法について、緊急事態宣言発令の要件が曖昧で政府の裁量の幅が広いことが問題だと訴えた。要件は「国民の生命、健康に著しく重大な被害を与える恐れ」がある感染症の「全国的かつ急速なまん延で、国民生活、国民経済に甚大な影響を及ぼす恐れ」がある場合と想定される。「どういう症状が『著しく重大』で、どういう事態が『急速』で、影響が『甚大』なのか。認定は政府に委ねられている」とした。岩手日報も「憲法が保障する国民の権利を制限する重大性に比較して、適用基準に厳格さを欠く印象は否めない」と論じた。

 緊急事態の判断に当たり、専門家の意見を聴取することが付帯決議に盛り込まれた。毎日は「本来は法に明記すべき事柄だ。野党が求めた国会の事前承認については、事前報告にとどまった。全体として歯止めは不十分だ」と主張。西日本も「問題は、それが改正案本体ではなく法的拘束力のない付帯決議でいいのか、ということだ」と指摘した。沖タイは「国会の承認を経ない法の行使は立憲主義に反する」とし、国会の関与と実質的同意を前提にした仕組みの再検討を求めた。

 中日・東京は「政府が『緊急でやむを得ない』と主張すれば事前報告は骨抜きになる。これだけ私権を制限する権限を与える法律だ。政府判断が妥当なのか監視するために、国会の事前承認は不可欠だろう」とした。一方、北國は「緊急事態宣言を感染症における国家非常事態ととらえれば、事前報告で事を進める考え方もあってよいのではないか。事前承認で国会が割れた状態になれば、社会挙げての防止策を徹底できない恐れもあろう」と主張した。

 安倍晋三首相は感染拡大防止のため全国的なスポーツ大会や文化イベントの開催自粛、小中高校の休校措置などを要請してきた。秋田魁は、こうした対応に「場当たり的であるとの批判や、法的根拠がないなどの指摘が相次いだため、法改正に踏み切った」とした。朝日も「専門家の意見を聴かず、唐突にイベントの自粛や全国一斉休校を打ち出した。政府自身が直前に定めた基本方針にも書かれていない措置だった。だが首相は詳しく説明することをせず、混乱を現場に丸投げした」と主張した。

報道の自由圧迫の恐れ

 琉球は「緊急事態では、首相や都道府県知事がNHKを含む『指定公共機関』に指示できる規定もある。指定公共機関は追加が可能だ。報道の自由を脅かしかねない。これは決して根拠のない不安ではない」と投げ掛けた。信濃毎日は「特措法をめぐっても、民放の報道に、政府はSNSで番組を名指しして〝反論〟した。緊急事態を大義名分に、放送、報道の自由が圧迫されることがあってはならない」とした。

 神戸は「与野党は成立後もきめ細かく説明を求め、国会の監視機能を発揮しなければならない。政府の責務は、緊急事態を招かないように対策を尽くすことである。場当たり的な対応で混乱を招いた点を反省し、医療拡充や経済対策など腰を据えた対応に全力を挙げるべきだ」と論じた。(審査室)

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