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2020年 5月12日
「わがこと」として警戒を

機動的な経済支援期待

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は4月7日、「緊急事態宣言」を初めて発令した。特別措置法に基づくもので、対象は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県。感染者数に歯止めがかからなかったことなどから、16日には対象地域を全都道府県へと拡大した。新聞各紙は新型コロナ一色の紙面が続いている。この宣言を巡る社説・論説を読み解いた。

医療崩壊招かぬため

 緊急事態宣言発令翌日の8日付紙面。読売は「感染経路を特定できない症例も多い。この勢いが続けば、患者が医療機関に殺到し、重症者に適切な治療を行えなくなる恐れがある」と指摘。神奈川も「オーバーシュート(爆発的患者急増)による医療崩壊はなんとしても食い止めねばならない」と危機感をあらわにし、「抑え込むために社会全体で警戒が必要だ」と訴えた。

 経済対策にスポットを当てた社も。毎日は「過去最大の経済対策も決めた」としたうえで、支援対象が絞られている点に触れ、「政府はきめ細かな生活支援に全力を注ぐべきだ」と主張。日経は「長期戦が予想される。家計や企業の困窮が続く場合、追加支援もためらうべきではない」「政府の機動的な対応を求めたい」と提言した。日本農業は「価格低迷に苦しむ農家への経営継続支援など、第2、第3の対策をスピード感を持って切れ目なく打つべきだ」と要望した。

 非常時には社会的弱者にしわ寄せがいきやすいとの視点で論じた中日・東京は「収入が途絶えつつある世帯や介護、子育てに追われる人たち、いわゆるネットカフェ難民ら、より強い不安を抱える人々に行き届かなければ意味がない」と強調。国や自治体のトップ、関係者は肝に銘じるべきだと訴えた。

 「国民の底力が問われている」とした産経は、「全ての人々と事業者は冷静さを保ちつつも危機感を共有し、地域の実情に応じた形で新型ウイルスとの戦いを進めるべきだ」と主張。神戸は「私たちが上からの指示に従うだけでは民主主義は退化する。現場を担う医療者はもちろん、国民一人一人がこの闘いの『主役』なのだと、胸に深く刻みたい」と論じた。西日本も「現在の危機的な状況を乗り越えられるかどうかは、市民一人一人の行動にかかっている」と自覚を促した。

 一方、朝日は「安倍首相と各知事は、重い政治責任と説明責任を負った」と指摘。「個人が誤りなき判断をするためには、政府や自治体が信頼され、正確で十分な情報が遅滞なく開示される必要がある」との見方を示した。

 対象地域が全国へと拡大し、それを論じた17日付各紙はどう受け止めたか。福島民友は「なすべきことを早急に整理し、対応していく」との知事の声を紹介しつつ、県に「迅速な判断が求められる」と要望。茨城も県に対し、「県民の命と健康を守るための対策を強化し、一日も早く終息への道筋をつけてもらいたい」と注文した。

 「都市圏との『温度差』は否定できない」とする佐賀は、感染拡大の防止が最優先としたうえで「私たちが日常をどう取り戻していけるか、安心の再構築も同時に進めていかなければならない」と論じた。長崎も「突然の宣言拡大には戸惑いがある」としながら、「医療崩壊という最悪の事態を防ぐため、宣言拡大を、県民一人一人が気持ちを新たに行動する機会ととらえたい」。中国も「命を守るためにも、『わがこと』として警戒感を高め、一人一人が行動を変えていかなくてはならない」と呼び掛けた。

政権の迷走に苦言

 政府は支援対象を拡大し、全国民に一律10万円を給付するなどとしたが、その迷走ぶりを指摘する社もあった。北海道は「国民の生活不安に応えるために、最初から分かりやすい10万円支給案を採るべきだった」と断言。「首相の判断の甘さが厳しく問われよう」と結んだ。

 新潟も「最大の緊張感を持って対応しなければならない時に、支援策を巡り政権が迷走する。これでは国民は安心できない」と述べ、「首相は独善を排し、国民の不安にきちんと寄り添うべきだ」と主張。下野、岐阜、山陰中央などは「『戦力逐次投入』は古来、避けるべき戦術の典型だ。欧米やアジアの先行例を見ても、当初から大きく網をかける宣言にすべきだった」と指摘した。

 静岡は政府に対し「宣言後は地元任せでも困る。地域によって感染状況や医療レベルは異なるからだ」と注文を付けた。信濃毎日も「全国統一の休業補償を検討するべきだ」とし、十分な支援が必要だと訴えた。高知は「宣言の網を全国にかけた。国はより重い責任を負った」とした。「政府・与党が右往左往している印象になっているのは残念だ」と指摘した日経は「ドタバタ劇を演じている場合ではない。いまこそ政治の真価を示すときだ」と結論づけた。(審査室)

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