2020年 6月9日
独立脅かす特例不要

安倍政権のおごり浮き彫り

 政府・与党は5月18日、検察官の定年を65歳に引き上げる検察庁法改正案の今国会での成立見送りを決めた。「#検察庁法改正案に抗議します」とのハッシュタグを付けたツイッター投稿が瞬く間に数百万へと拡散するなど、世論の大きなうねりが成立をストップさせた。この法案をテーマにした社説・論説で、どういった問題点や課題が指摘されたのかまとめてみたい。

 法案成立に反対してきた各社の主張で一致しているのは、時に権力中枢への捜査も行う検察は政治から独立していなければならない、という点だった。内閣か法相が必要と認めた場合は幹部の定年を最長3年延長できる「特例規定」を各社が問題視し、政権の思惑が働く余地が生まれるため、独立性や中立性が担保できないと指摘した。

 毎日は「政権にとって都合のいい人物が長期間、検察を動かすことも起こり得る。こうした仕組みをつくること自体が問題だ」としたうえで、「定年延長の特例は削除すべきだ」と結論づけた。

 読売も「検察の独立性を守るには、改正案の見直しは避けられまい。特例規定は削除すべきではないか」とし、「組織の新陳代謝のために例外なくポストを退く、といった仕組みにする必要があろう」と提案した。朝日は「『先送り』では解消しない。廃案にして政府部内で一から議論をやり直すべきだ」と廃案にまで踏み込んだ。

黒川氏定年延長撤回を

 一方、産経は「検察官も一般公務員であり、検事総長などの人事権はもともと内閣にある。検察官はまた、起訴権をほぼ独占する準司法官の性格も持つ。2つの異なる性格のはざまでどちらかが百パーセントということはない」と指摘し、「改正論議は、政府が特例要件を示すところから再開すべきである」と論じた。

 沖タイは、黒川弘務・前東京高検検事長が今年1月に閣議決定で定年延長されたことにも触れ、「違法の疑いが強く、改正案はそれを後付けで正当化しようとするものだ。改正案の特例規定とともに、黒川氏の閣議決定も撤回すべきである」と断じた。河北も「黒川氏を検事総長に据えれば批判が再燃する可能性が高い。閣議決定は撤回すべきだろう」と主張した。中日・東京は、閣議決定は「撤回されるべき」としたうえで、「なぜ前例のない黒川氏の人事がなされたか。この疑問についても今後の国会審議の中で、政権側は回答せねばならない」と注文を付けた。

 批判の矛先は、黒川氏の定年延長を閣議決定し、検察庁法改正案に特例規定を盛り込んだ安倍内閣にも向けられた。信濃毎日は「『1強』の政治状況にあぐらをかき続けている。今回の顛末は安倍政権のおごりを改めて浮き彫りにしたといえる」とし、「ないがしろにしてきたものは『説明して議論を尽くす』という民主主義の基本である」と主張した。

 熊本日日も「政府、与党が検察官の定年を延長する検察庁法改正案の今国会での成立を断念した。高まる世論の反発に折れた形だが、これまでの経緯をたどれば、『安倍1強』政権のおごりが招いた結果だと言わざるを得ない」と突き放した。中国は「国民が納得できないのは、現政権がこれまでにもさまざまな疑惑に対し、審議を尽くさず、うやむやにしてきたからだ。そうした政治姿勢に今、厳しい目が注がれている」と指摘した。

「不要不急」批判も

 さらに、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、緊急事態宣言が発令されていた状況下で、政府・与党が法案成立を急いだことへの批判も多い。日経は「そもそも新型コロナウイルス対策に全力で取り組むべき国会での駆け込み的な成立が許されるはずはなく、見送りは当然のことだ」とした。新潟は「新型コロナウイルス禍で国民が疲弊する中で、不要不急な法案成立を目指す。世論はこうした独善的な政権運営にも厳しい目を向けている」と論じた。

 秋田魁は「検察官の定年延長自体も検討が必要だろう。新型コロナウイルスの影響で経済が大打撃を受け、感染収束も見通せない中、定年延長を議論すべきなのかとの疑問は拭えない」とした。

 検察庁法改正案と一括審議されている国家公務員法改正案に目を向けた社もある。北海道は「政府案では60歳超の給与を当分の間、7割とする。一方、大半の民間企業は、高齢者の勤務延長に伴う人件費増加が負担となり、給与水準をより大幅に引き下げるなどして対応しているのが実態だ」と指摘した。そのうえで、「業務の効率化や賃金カーブの見直しなどを進めずに、官を優遇するのなら国民の理解は得られまい」と断じた。(審査室)

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