専守防衛の逸脱懸念

抑止力向上 幅広い議論を

 自民党のミサイル防衛検討チームは8月4日、敵基地攻撃能力の保有を含む抑止力向上を求める提言を安倍晋三首相に提出した。首相は「新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく」との考えを表明。国家安全保障会議での議論を本格化させ、9月中に方向性を示す方針だ。多くの社が保有について「専守防衛からの逸脱」と批判。一方、北朝鮮などのミサイル能力の向上を理由に、政府に保有を促す社説もあり、安全保障観の違いが如実に表れた。

 提言は、日本を標的とした弾道ミサイルに対し「迎撃だけでは防御しきれない恐れがある」とした上で「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みが必要である」と政府に求めた。「敵基地攻撃能力」の表現は避けながらもその保有を促した。

先制攻撃の道開く

 北日本は「一つ間違えば国際法違反の先制攻撃になりかねない『攻撃型』の防衛手段である。前のめりの議論は危険だ」との懸念を表明。その上で「いま急ぐべきは、断念した地上イージスに代わる現実的なミサイル防衛の方策を検討することだろう」と訴えた。愛媛は「自民に求められるのは、地上イージス断念に至った責任の所在を政府に厳しく問うことだ」と強調。政府には「外交努力による周辺国とのあつれき回避」に注力すべきだと求めた。

 朝日は①国際法違反の先制攻撃になる恐れ②目標の特定が困難で相手国の反撃が必至③自衛隊の人員や予算上の制約―などの難点を指摘。「専守防衛から逸脱し、日米の役割分担を変えかねない議論を、『結論ありき』で進めることは許されない」と訴えた。

 東奥、下野、岐阜、山陰中央、佐賀などは、他国の領域内を攻撃できる能力を持つことは「『専守防衛』からの逸脱ではないか」と提起。提言に「自衛のために必要最小限度のものに限るとの従来の方針を維持する」と明記した点に触れ、慎重論を尊重し「前のめりの議論は慎むべきだ」と戒めた。

 毎日はコロナ禍で政府の財政が厳しいとした上で「防衛政策の基本を変えかねない敵基地攻撃能力に飛びつくのではなく、幅広い議論と検討が必要だ」と慎重な対応を求めた。中日・東京は「抑止力向上のための取り組みが周辺国の軍拡競争を促し、逆に緊張を高める『安全保障のジレンマ』に陥る恐れもある」との懸念を示した。

見直しをタブー視せず

 一方、産経は「敵基地攻撃能力の保有を決断すべきだ」と政府に求めた。専守防衛の原則に抵触し、周辺国の緊張を高めるとの反対論には「誤りだ」と指摘。攻撃を防ぐ手段が他にない場合に相手基地をたたくことは「自衛の範囲内」との政府見解を理由に挙げ、「保有反対論は、国民の安全よりも侵略者の安全を優先する愚論」と強調した。

 読売は北朝鮮や中国のミサイル技術の進化に触れ「日本に被害が及びそうな場合、ミサイル拠点を攻撃する選択肢を持つことは妥当だ」との認識を表明。提言について「自衛の範囲でどのような対処が可能か。将来の安保環境を見据え、多角的に検討する必要がある」と求めた。北國は「軍事情勢の変化に対応して、専守防衛や抑止力の在り方を見直すことは国防の基本であり、タブー視せずに議論を前に進めたい」と強調した。

 日経は「迎撃によるミサイル防衛の難度が高まるなか、抑止力強化の一環として議論する意味はある」と指摘。同時に「打撃力だけに関心が集まるのは適切でない」とし、世論調査で保有への賛成が反対より18ポイント少ないと紹介した。

 信濃毎日は「わずか1か月の間に、結論ありきで進んだ感は否めない」と批判。「憲法や専守防衛の理念から逸脱する懸念の強い問題を、限られた範囲の意見だけで取り決めていいはずがない。異論にこそ耳を傾けなければならない」と訴えた。熊本日日は「拙速な結論は禍根を残す」と強調した。

 新潟は自民党が1か月で提言をまとめた背景について「首相が得意の安全保障政策でレガシー(政治的遺産)づくりを狙っているとの見方も出ている」と指摘。山梨日日は「国民的なコンセンサスのないまま進めるレガシーは、『負の遺産』にしかなるまい」と批判した。沖タイは野党の臨時国会召集要求に触れ「政府は速やかに応じた上で、敵基地攻撃能力の論議も含めて国民の疑問に答えるべきだ」と求めた。

 京都は9月中に政府が方向性を示すとしていることには「平和国家にふさわしい防衛論議を深めるべきだ。戦後積み上げてきた非戦の歩みを無にしてはならない」と強調。高知は「慎重の上にも慎重を期した論議を尽くすことが、政府に課せられた最低限の責務である」と論じた。(審査室)

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