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2021年 5月11日
日本独自の対中戦略必要 「新冷戦」下の日米首脳会談

台湾有事回避 外交努力で

 菅義偉首相は4月、バイデン米大統領とホワイトハウスで初めて対面で会談した。計約2時間半に及んだ会談の内容は、日米同盟や気候変動、国際経済、新型コロナウイルス感染症への対応など多岐にわたった。共同声明で52年ぶりに台湾情勢に言及したように、中国へのけん制を強く打ち出すものとなった。各紙は社説・論説で、国際秩序に挑戦する中国に対し、日米が共同で対処することに理解を示した。その半面、日本は米国に追随するだけでなく、国益を見据えて行動すべきだとの論調が多く見られた。

同盟深化を評価

 日経は会談を総括し、「民主主義や人権などの価値を前面に打ち出し、ルールにもとづく国際秩序に挑戦する中国に日米同盟を深化させて対処する姿勢を明確にした意義は大きい」と強調した。

 北國も「バイデン氏が『民主主義と専制主義との闘い』と位置づける米中対立は、価値観と体制の優劣を競う点でまさに新冷戦であり、長期に及ぶと見なければならない。そうした歴史的転換点において、日米同盟の方向とありようを明示した意義は大きい」と評価した。

 これに対し、「今回の会談は大筋では評価できるが、懸念も拭えない」としたのは西日本。「日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、経済面では互いに切り離せない関係だ。中国の人権問題に関して日本が先進7か国(G7)で唯一、制裁を科していないのも関係悪化を望まないためだ。米国の対中戦略に追随するだけでは守れない日本の国益もある」とくぎを刺した。

 京都も「日本にとって中国は隣国であり、経済的にも歴史、文化的にも深いつながりがある。北朝鮮問題やコロナ対策、脱炭素化でも中国の関与と協力が不可欠だ」とし、「米国の対中戦略に付き従うだけではなく、日本独自の立ち位置を考え、役割を果たす主体性も問われよう」と論じた。

 信濃毎日は「日米は、半導体やレアアース(希土類)の供給網構築に向けた連携、通信や人工知能といった先端技術の共同研究でも合意した。米側には、こうした分野でも台頭する中国を締め出す狙いがある」と指摘したうえで、「コロナ禍にあって日本の対中貿易の比重は増し、疲弊する産業を支えている。対日姿勢を硬化させつつある中国が、経済制裁に動かないとも限らない」と懸念を示した。

 日中関係について、毎日は「かつての太い人脈は細り、冷静な対話もままならないのが日中関係の現状だ。同盟強化だけでは打開できない。米国頼みではない独自の対中戦略が求められる」と強調した。

 最も注目を集めた台湾情勢が共同声明に盛り込まれたことについては、産経が「とりわけ評価できるのは、共同声明で『台湾海峡の平和と安定の重要性』を強調した点だ」とし、さらには、「沖縄の隣で自由と民主主義を掲げる台湾に対して中国が軍事力を行使する事態は絶対に阻みたい」と訴えた。

 静岡は「日米安全保障条約を結び同盟関係にある米国と、地理的、歴史的、経済的に深い関わりを持つ中国の双方と密接な立場にある日本にとって、『平和的解決』こそが唯一の選択肢と言っていい」とした。朝日も「台湾をめぐっても『両岸問題の平和的解決を促す』と付記された。言葉だけに終わらせてはいけない。日本が果たすべき役割は、米中双方に自制を求め、武力紛争を回避するための外交努力にほかならない」と日本に努力を促した。河北も同様に、「『新冷戦』の地理的最前線で求められるのは、事態をエスカレートさせないための外交努力に他ならない」と強調した。

あらゆる事態想定を

 一方、読売は「台湾で軍事的な危機が生じれば、日本の平和に深刻な影響が及ぶことは避けられまい」としたうえで、「あらゆる事態を想定し、日米であらかじめ役割分担を議論しておくことが不可欠だ」と指摘した。

 北海道は「米国に対しては、海外での武力行使を禁じた憲法の下、日本ができることと、できないことの線引きを明確にし、毅然(きぜん)と伝えていかなければならない」と主張した。中日・東京も「台湾海峡で軍事衝突があった場合、日本は安全保障関連法に基づいて自衛隊を派遣し、米軍に協力することになるかもしれない」とし、「同法には違憲訴訟も提起されている。いくら『同盟』関係にあるとはいえ、憲法が許す範囲かどうかは問い続ける必要がある」と論じた。

 神戸も同様の観点から、「米軍への武力攻撃が日本の『存立危機事態』と認定されれば集団的自衛権行使の議論に移るが、それを定めた安全保障関連法自体を違憲とする専門家は多く、国内の混乱を招きかねない」と法解釈が混乱する可能性に危惧を示した。(審査室)

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