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2021年 6月8日
個人情報保護の後退懸念 デジタル改革関連法成立

国民の利便性高める道筋示せ

 菅義偉政権の看板政策であるデジタル改革関連法が成立した。司令塔となるデジタル庁は9月に発足する。新型コロナウイルス禍で浮き彫りになった行政のデジタル化の遅れの改善が期待される。各社の社説・論説では、自治体が独自に定めているルールを共通化する個人情報保護制度見直しを懸念する論調が目立った。

司令塔機能に注文と期待

 デジタル庁は首相がトップとなり、省庁への勧告権などの総合調整機能を持つ。毎日は「組織いじりに終わらせてはならない。意識改革を進め、前例踏襲や縦割り、住民の申請がないと動かない受け身の姿勢といった行政の弊害を抜本的に是正する必要がある」と主張。日経は「世界に後れをとった分、手本はあちこちにある」とし、「デジタル庁には『志は高く、目線は低く』の姿勢を求めたい」とした。

 発足時の体制は500人規模で、うち約120人は民間採用を予定する。西日本は「個人情報の厳正な取り扱いはもちろん、出身企業の利害が絡むことなどあってはならない」と注文を付けた。

 情報技術に強い人材が東京に集中していることに触れた宇部は「地方にとっての課題は地元で必要な人材を調達できないことだ」とし、地方への支援など国の事業に期待をのぞかせた。

 デジタル化で期待されるのが、行政手続きの効率化だ。岩手日報は「デジタル化やマイナンバー制度の担当は、これまで複数の省庁に分かれてきた。それを集約することは、菅政権が掲げる『縦割り打破』の試金石にもなろう」と述べた。山陽も「はんこや書面が必要な行政手続きが削減され、国際的にも煩雑だと指摘されてきた申請手続きが簡素化される。希望者は給付金を受け取る預貯金口座をマイナンバーと一緒に登録しておけば、迅速な振り込みを受けることもできる」と利点を挙げた。その上で「利便性の向上につながるなら、大いに期待したい」と強調した。

 一方、多くの社が個人情報保護を巡り懸念を示した。自治体が独自に定めている個人情報保護条例は全国共通のルールに統一される。データを流通しやすくし、ビジネスに生かす狙いもある。

 読売は「個人情報保護の法令を整理し、統一ルールを定めたことは前進である」と評価した。一方で「データ活用と個人情報保護が両立できるように、適切なバランスを模索することが大切だ」と指摘した。秋田魁は「国と自治体の情報システムは今後、共同化され、国民の膨大な個人情報を国が集中管理する可能性がある。それだけに情報漏えいや目的外利用が発生すれば、被害は甚大なものとなりかねない」と警鐘を鳴らした。

 個人情報保護を巡っては、国会審議中から懸念が高まっていた。朝日は「自治体が政府に先行して取り組んできたのが個人情報保護の歴史だ。それを国基準にそろえさせるのは、地方自治の理念に逆行する」と問題視する理由を挙げた。河北は「実は政府や企業が個人情報を含むデータを簡単に利用できるようにするのが狙いではないか」と指摘。新潟は「国民の暮らしの利便性を高めることは歓迎だが、その前提として個人情報の保護がしっかりなされていなければならない」、神戸は「情報がどう扱われているかを知り、訂正や抹消を要求できる『自己情報コントロール権』の保障も明記すべきだ」と求めた。

 法成立後を見ても、国との統一ルールには地方の警戒心が強い。北海道は「一部自治体が厳格化していた保護のルールは国との統一で後退する可能性がある」と危惧。琉球は「実態は自己情報コントロール権を保障せず個人情報保護を後退させる内容だ」と言い切った。信濃毎日は「住民に身近な自治体として首長と議会は、共通規則に条例の原則を反映するよう強く主張してほしい」と呼び掛けた。

監督体制の強化求める

 個人情報取り扱いの監視・監督は、個人情報保護委員会が担う。従来は民間企業を対象にしていたが、国の機関や自治体に範囲を広げる。高知は「盤石の体制が整えられているとは言い難い」、京都は「多くの課題が生煮えのままとなっている。法が適切に運用されるか、監視していく必要がある」とし、それぞれ体制強化を求めた。

 「法律成立までの手法にも疑問がある」としたのは中日・東京。「衆参で計50時間というスピード審議。デジタル庁創設を自民党総裁選で公約した菅首相の都合が優先された感がある」と批判した。

 デジタル庁発足まで準備期間は限られている。産経は「デジタル改革の全体像を早期に提示し、国民の利便性を向上させる道筋を明らかにしてもらいたい」と要求、熊本日日は「恩恵を受ける人が増えたとしても、取り残される人が出たのでは意味がない。弱者への配慮は絶対に欠かしてはならない」と力を込めた。(審査室)

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