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2021年 7月13日
科学置き去り 「独善」に警鐘 東京五輪 観客巡る方針

国民の健康守る責任問う

 政府は7月8日、4回目の緊急事態宣言発令を決めた。東京五輪は首都圏の1都3県で無観客開催となった。その後、北海道と福島県も無観客に。五輪開催を巡る方針は大きく揺れた。政府と大会組織委員会、国際オリンピック委員会などはこれに先立つ6月21日に5者協議を開き、観客を入れて開催すると決めていた。新型コロナウイルス禍での大会開催を巡り世論が割れる中での判断だった。この時点で専門家による無観客開催の提言は採用されていなかった。各紙は23日付までの社説・論説で有観客での開催リスクをさまざまな観点から訴え、安全最優先の大会運営を求めていた。中には菅義偉首相の責任を問う声もあった。

開催の是非 議論されず

 西日本は「コロナ禍での開催の是非は議論せず、観客の有無や規模に論点がすり替えられた観があるのは極めて残念」と批判。今なお大会運営者と国民の温度差は大きく「共感は広がっていない。これが開会を1カ月後に控えた東京五輪の現在地である」と捉えた。南日本は世論調査を引用し「『無観客で開催すべきだ』『中止すべきだ』を合わせると7割に上った。感染再拡大への不安が解消していない表れ」と指摘した。一方、岩手日報は「『中止するべきだ』が30%と、前回5月からほぼ半減した。逆に『無観客で開催』は40%に増え、中止を上回った」ことに着目。「条件付きの容認と読み取れる」と分析した。

 毎日は、コロナ対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が「最もリスクが少ないのは無観客」との見解を政府や組織委に提出していたことに言及した。「観客を入れる場合でも、国内基準より厳しい制限が必要」との提言だったにもかかわらず、5者協議の決定は「専門家の意見を正面から受け止めず、安全をないがしろにしかねない判断」と断じた。中日・東京は、観客数に上限を設ける一方で「競技団体役員や大会スポンサーの招待客ら大会関係者、学校との連携で観戦する児童生徒は枠外とした」ことを問題視。「なし崩し的に拡大する姿勢は容認できない」と強調した。河北は「観客を入れる場合、会場内での感染の可能性だけでなく、県境を越えた移動が増えることや、大会の盛り上がりが人の行動を緩める」リスクがあると説いた。さらに大会運営についても「観客を入れることで複雑化する。猛暑と重なることで、観客から発熱者が出た場合、熱中症であっても、コロナも見据えた対応を迫られる」と難しさを指摘した。

 朝日は「このまま突き進めば『コロナに打ち勝った証し』どころか、科学的知見を踏みにじる『独善と暴走の象徴』になりかねない」と糾弾。開催するのであれば「リスクの最小化に向けて採り得る限りの手段を採るのが為政者の責務だ」と訴え、「どんな状況になればいかなる措置をとるのか、わかりやすい判断基準」を速やかに示すよう求めた。徳島は、菅首相が「『開催ありき』『観客ありき』で突き進んでいるようにしか見えない」と追及。「衆院選に向け、観客の応援で五輪成功を演出したい首相の思惑と、多額の協賛金を出すスポンサーへの配慮がにじむ」とただした。

 茨城、岐阜、長崎などは「ここは政府が国民の健康を守る責任をしっかりと果たさなくてはならない」「感染拡大の予兆が現れたなら、ためらうことなく無観客での開催に転じるべきだ」と強調。福島民友は「五輪に関する意思決定には時間がかかる。事前に関係5者が協議し、無観客に切り替える際の基準を明確にしておかなければならない」と付け加えた。

 菅首相は首都圏などの会場を無観客に変更した。一方、有観客を維持する地域もある。各紙は6月末の社説・論説でも観客の行動や注意点に言及している。陸奥は「観客が移動に使う公共交通機関、宿泊施設での感染対策も徹底させなければならない」と課題を列挙。残された時間が少ない中で「やると決まった今、『安全、安心』を最優先に万全の準備を整えるしかない」とした。

 読売は観客の立場に視点を移し、「一人一人の行動次第で感染拡大が抑止できる」と直行直帰の徹底を訴えていた。

新たなモデルの発信促す

 産経は「開催への懐疑論は依然として根強いが、選手たちの卓越した技と力の競演には、何ものにも替えがたい価値がある」と指摘。有観客の意義に触れ「観客の存在は強い追い風となって選手を鼓舞し、大会の感動と興奮、歴史的な価値を高めてくれるはずだ」と説いた。

 日経はプロ野球やサッカーJリーグ、大相撲開催の知見も参考にするよう提案し「新しい五輪のモデルを世界に届けるため、万全の準備で臨みたい」と訴えた。(審査室)

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