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2021年 8月10日
雇用と経営守る策示せ 最低賃金引き上げ

「政権の思惑」絡む決定注視

 厚生労働省の中央最低賃金審議会は、2021年度の地域別最低賃金を時給で一律28円引き上げ、全国平均930円とする目安を決めた。経営側委員の求めにより異例の採決で決着した。各社の社説・論説は引き上げに理解を示したが、決定には政権の意向が反映されていると指摘。議論の過程が不透明だとする社もあった。引き上げで影響を受ける中小企業への支援策や地域間格差の解消が必要だと訴える論調が目立った。

地域間格差の解消急務

 目安通りに引き上げられたとしても、最高額となる東京都の1041円と、最低額となる7県の820円の間には221円の差がある。朝日は「先進諸国の中でも低水準の日本の最低賃金は、今後もさらなる引き上げが必要だ。生活の安定を図るという原点に立ち返れば、全国平均の目標達成だけでなく、800円台の地域の底上げこそ急務だ」と提唱。今後の議論でも底上げに資する方法を検討するよう求めた。

 中日も、最低賃金額が物価などにより全国で異なる現状に触れ、「この格差が賃金の高い都市部に地方から人材が流出する要因の一つである。今年は格差是正に向けて全区分一律二十八円の引き上げとしたが、地域間格差の解消には不十分だ。さらなる是正を求めたい」と強調した。

 産経は、着実な引き上げが不可欠としながらも「今回のような大幅引き上げは、地方の中小・零細企業にとって負担が大きい。新型コロナウイルスで打撃を受けた業種では、その影響は深刻である」と指摘。政府が企業への支援を同時に進める必要があると記した。

 日経も「急激な引き上げは中小企業の経営を圧迫する」「今後も企業の負担が増え続ければ、雇用減など地域経済への悪影響が広がりかねない」と懸念を表明。生産性の改善と最低賃金の上昇が歩調を合わせることが重要だとし、政府には企業の収益力強化を後押しする役割があると主張した。

 決定の経緯について、信濃毎日は「気になるのは、今回の決定には菅義偉政権の思惑が深く絡んでいるとみられる点だ。首相は増額に強い意欲を示してきた。衆院選も近く、有権者にアピールする材料とする狙いもあるのだろう」と分析した。

 南日本も「昨年9月の就任直後から引き上げに意欲を示していた菅首相は、経済財政諮問会議でも繰り返し言及。事実上政権主導の引き上げといえ、秋までに行われる衆院選で成果に掲げたい思惑がうかがえる」との見方を示した。

 北海道は「労使双方の折り合いがつかない中での決着は引き上げへの政権の意向が強く反映された。審議は客観的な経済指標に基づき判断されるのが本来望ましい。議論は透明でなければならない」と強調した。

 神戸は「休業や営業時間短縮の要請に応じた飲食店への協力金の支払い遅れなどが、事業者の死活問題になっている。後手に回る政府のコロナ対策が企業側の反発や不安の背景にあることを、政権は自覚すべきだ」と説いた。

 愛媛も「最低賃金が重みを増す背景には、雇用ルールを緩め低待遇で働かざるを得ない人を増やしてきた労働政策があり、政府の責任は重い」と断じる。「引き上げても大丈夫なよう雇用と経営を守る具体策を示し、企業が前向きに取り組める環境づくりを急ぐべきだ」と論じた。

 河北は「最低賃金の引き上げは、財政支出がなくても実施可能な貧困対策であり、世論にも受けやすい」と指摘。「政策誘導による引き上げは働く人の生活支援としては大きな意味を持つだろうが、構造的な格差やコロナ禍による窮乏への対応には、やはり限界がある。十分な財政支出の裏付けを要する社会保障と混同してはなるまい」と戒めた。

 政府は賃金引き上げと同時に設備投資を実施した中小企業に最大450万円を補助する制度を設けている。読売はこの制度の利用が低調だと述べ、手続きの煩雑さを解消し、補助額の引き上げを検討するよう求めた。さらに「IT化の推進や成長分野への進出などを促す対策を講じ、中小企業の経営基盤の強化によって賃金の引き上げが可能になるような環境づくりが大切だ」と提言した。

審議の透明性に課題

 今後について福井は「首相は中小企業の再編にも言及し、最低賃金アップもその一環と見る向きもある。産業構造をどう改革するつもりなのか、ビジョンも明確にすべきだ」と要望した。

 中国は、審議会が非公開のため、目安額の根拠や決定の過程が分かりにくいと指摘。「どんなデータに基づき、議論したのか。なぜその額になったのか明確に説明できるよう、審議会の在り方を含めて見直しを検討すべきだ」と問題提起した。(審査室)

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