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2022年 5月10日
消費者被害防ぐ策に重点 成人年齢 18歳に引き下げ

特定少年実名巡り「正解ない」

 民法上の「成年」は4月1日、従来の20歳以上から18歳以上へ引き下げられた。「大人」と「子供」の境界が動くのは、成人年齢を20歳に定めた1876(明治9)年の太政官布告以来となる。各紙は社説・論説で、「より良い社会をともに築く機会にしたい」(愛媛)など18歳成人に声援を送った。さまざまな課題も指摘した。

知識と対処法習得を

 新成人は保護者の同意なく契約を結べるようになった代わりに責任も負う。「被害を防ぐ法整備」(熊本日日)や「消費者教育の充実」(徳島)などが欠かせないとし、悪質商法から若者を守る方法に重点を置く社説が相次いだ。

 日本農業は、国民生活センターへの相談が20歳の成人を境に増える傾向にあると紹介。「今後は18、19歳に広がる恐れがある」と懸念を示した。

 読売は就職や進学で親元を離れる18、19歳について「社会を知る機会が少ない」ために被害に遭う危険があると懸念する。朝日は消費者被害を巡り、消費者庁だけでなく「捜査機関や各地の弁護士会も目を光らせてほしい」と主張した。新潟は「正しい知識と対処法を学び、自らを守らなくてはならない」と新成人に呼び掛けた。

 2018年の改正消費者契約法による保護では不十分だとする論調も目立った。下野は、退去困難な場所への同行などを取り消し対象に加える法改正の動きを紹介。その上で「悪質な業者が抜け道を探し、より巧妙な勧誘をすることは想像に難くない」と記した。冷静に契約内容を判断する時間を与えない場合も取り消し可能にすべきだとする専門家の意見を掲載した。

 全ての分野で「大人」扱いの年齢が引き下げられたわけではない。女性が結婚できる年齢は16歳から男性と同じ18歳に引き上げられた。西日本は「国際社会は18歳未満の結婚を『児童婚』と見なし、国連の子どもの権利委員会は日本政府に是正を勧告していた」と経緯に触れた。「ジェンダー平等の観点から当然であり、むしろ遅すぎた」(神戸)との評価もあった。
 日経、荘内、京都などは、飲酒や喫煙、競馬などのギャンブルは引き続き禁止されているとくぎを刺した。

 18、19歳は規制や保護を受けるだけの存在ではない。裁判員になる可能性もあり、社会の支え手となる。特に少子高齢化が進む地方では期待も大きい。岩手日報は、コロナ禍で地方への関心は高まったものの、移住を巡り「一人一人が求めるニーズは異なる」と指摘。「魅力や可能性を感じられる選択肢」を提示するため官民連携が必要だと訴えた。

 福島民友は新社会人に向け「先進技術で代替することのできない発想力」や「全体を俯瞰して見る力」の大切さを説いた。金銭との向き合い方として、人生設計を考えた貯蓄や自己投資を勧めた。

 歴史を振り返ると、元服や成人式が大人になる節目を意味していた。北國は「今回の法改正に伴うそうした通過儀礼はほとんどなく、もっぱら本人の自覚に委ねられている」と指摘。社会の一員としての意識は「地域社会とのかかわりによって育まれる」とした上で、祭事や見守りなど「参加しやすく興味のあるところから始めるのがいい」と促した。

判断の経緯 読者に説明

 刑事司法の分野でも大人と子供の境目に大きな変化があった。改正少年法の施行により18、19歳は「特定少年」と位置付けられ、家庭裁判所から検察官への送致(逆送)が適用される犯罪の範囲が広がった。起訴後は実名報道が可能になった。

 更生を重視する少年法の趣旨は変わらないが、凶悪犯罪の厳罰化を求める世論が法改正を後押しした。21年10月に甲府市内で起きた放火殺人事件を巡り、甲府地検は「重大事案」として19歳被告の実名を公表した。地元紙の山梨日日は社説に実名を載せ、改正少年法の施行を視野に少年事件の被害者や遺族、専門家らの意見を聴いたと説明。今後も「正解のない答えを探し続けなければいけない」と結んだ。

 北海道はネットに拡散した実名が「半永久的に残り、社会復帰を目指す上で大きな障壁になりかねない」と問題点を挙げた。また、「被害者側の処罰感情は当然だ」とした上で、刑務所は少年院に比べ「教育的配慮が弱い」と指摘した。

 一方、中日・東京は特定少年の匿名報道を「原則維持」すると紙面で告知した。

 改正少年法は5年後に見直しを検討する付則がある。産経は民法や公職選挙法を含め「将来的には大人の線引きを一本化することが好ましい」との見方を示した。国民全体での議論に必要な材料を提供するためには、特定少年を含め新成人を取り巻く現場での課題などに関する多面的な報道が欠かせない。(審査室)

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