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2023年 1月24日
防衛 大転換 「強行」に警鐘 地方各紙の元日付紙面

原発回帰方針 対話不足を批判

 地方各紙の元日付の社説・論説は、今年の姿勢を読者に示す「書き初め」といったところだろうか。新型コロナウイルス禍が収まらない中でロシアのウクライナ侵攻とむごい戦禍に世界が激しく揺れ、国内では安倍晋三元首相銃撃事件が起き、その国葬や防衛・原発政策の大転換が進められた昨年。政権の強行姿勢や国民との対話のなさを指摘する論調がみられた。経済変調で人々の生活苦は深刻化し、少子高齢化対策も不十分なままだ。そうした激変の衝撃、影響がすぐあらわになるのは地方の現場だ。そこに根付く新聞だからこその切実な思いが、統一地方選を控える2023年の初日にずらりと並んだ。

戦争回避の機運育む

 防衛費急増、軍備拡大の方針により、中国の台湾侵攻を念頭にミサイル基地配備などが想定される南西諸島。沖縄2紙は、情勢切迫への懸念を強く訴えた。沖縄戦体験者の「戦争(いくさ)やならんどぉ」の言葉を添えた沖タイは「『非戦・平和創造元年』と位置付け、紙面を通して戦争を回避するための機運づくりを進めていきたい」とした。琉球も「有事が起きれば、基地があるため攻撃される恐れが大きい。命に直結する負担は飛躍的に増す」として「平和の要石となれるよう『命どぅ宝』の思想を誇りに声を上げていこう」と唱えた。

 九州の各紙の不安にも実感がこもる。米軍訓練地となる南西諸島の馬毛島で基地建設が進む状況を受け、南日本は「軍拡競争を招く危うさ」をはらみ、「先の大戦の教訓をないがしろにしかねない動きは足元にまで及んでいる」。熊本日日は「外交を絡め軍縮につなげる戦略も見えない」ので、「『緊急避難』的な、にわか普請」の政策転換で「軍拡競争の列に並んだ日本はどこへ走るのか」と危惧を表した。「安易な軍事力強化」とした宮崎日日は、アフガニスタン復興などに命を賭した故中村哲医師の「武装して身を固めるところに平和はない、『人と和』して信頼関係をつくることが平和と生活の安定への確かな道」との思いを取り上げた。

 三沢基地に近いデーリー東北は「政権の強行的な姿勢に危うさがにじむ」とした上で「自衛隊や米軍基地がある青森県にとって重大な関心事」と述べた。横須賀、厚木に大規模な米軍拠点がある神奈川も「日本政府は冷静さを失い、ただうろたえているように映る」とし、「米国の核兵器を国内に配備して共同運用しようという発想まで出ている」と警戒した。

 被爆地を本拠とする中国は核兵器使用への懸念を表明した。「危機感にあおられ議論を深めぬまま、防衛力増強に突き進むのは危険」とした上で、5月の先進7か国(G7)広島サミットに「核廃絶に向けた道筋や具体的な行動を保有国に考えてもらうきっかけ」を求めた。同じく被爆地にある長崎も、地元で開催されるG7の保健相会合で「世界の要人に被爆の実相を知ってもらい」たいと願った。

 ウクライナの戦禍を巡り信濃毎日は「停戦の道筋を何としても見いださなくてはならない」と主張。国連安全保障理事会の機能不全の中で「『力による抑止』に急速に傾きつつある」国際社会の現状を憂えた。

 岸田文雄政権の政策の進め方への批判は原発回帰への転換なども含めて広がった。「国民の声を熟慮することなく、独断に近い」(北海道)、「国会や国民を巻き込んだ議論を経ることなく」(河北)、「軽すぎる決断ではなかったか」(新潟)、「不意打ちのような一方的な宣言と行政の決定だけ」(京都)、「『聞く力』をセールスポイントにする首相とは思えない独善ぶり」(山陰中央)など厳しい意見表明が相次いだ。高知も「問題は30%台の支持率でしかない政権が、こうした歴史的転換を国会や選挙で十分に説明せず、国民的な議論や合意を欠いたままで拙速に決めていくことだ」と指摘した。

 民主主義の在り方を巡り、静岡は「対話は民主主義の原点」であり「手間のかかる仕組み」だとした上で、「国の未来を語り合うことから」始めようと提唱した。岐阜も「過酷な時代を生き抜くには現実主義(リアリズム)が欠かせない」としつつ、「民主主義の理想や平和を冷笑する態度からは何も生まれない」と論じる。北日本は「他者へのまなざしが問われている」とし「もう少し寛容でありたい」と誓った。

統一選 民主主義再生の一歩に

 原発回帰については、福島民報が「福島第1原発事故からの復興に向けた課題が山積し、使用済み核燃料の行き場もない」中で、回帰の流れが「政府主導で加速」し「国の根幹に関わる判断が国民不在でなされている」と指摘した。茨城は「事故の検証は果たして十分なのか」と疑問を呈した上で、今年計画されている福島第1原発の処理水の海洋放出が「新たな風評被害を招かぬか」と不安を示した。福島民友も「国や東電は県民が培った経験や知見を生かし、痛みをわが事として風評防止の成果を示さなければならない」と望んだ。

 原発の運転期間の長期化に対しては、集中地を抱える福井が「脱原発を望む国民も少なくない」「古い原発を使い続けることに不安を感じる県民もいる」と指摘。使用済み核燃料中間貯蔵施設の県外計画地点が示されない限り3基の運転再開はないとくぎを刺した。玄海原発が立地する佐賀も「佐賀県民としても十分な論議と説明を求めたい」とした。

 4月の統一地方選を「4年に1度しかない審判の機会」とした陸奥は18、19歳の若者に「貴重な一票を投じてほしい」と訴えた。山形も「選択の年」と位置付け、「地域の未来を決める」意識で「貴重な権利」の行使を求めた。日本海も「自分事として向き合うことが、持続可能な地域を築く第一歩」と呼び掛けた。

 徳島は岸田政権下で「『民主主義の危機』は一層深まっている」とみる。今春の統一選で「傷ついた民主主義の再生へ一歩踏み出したい」と結んだ。京都は安倍政権以来の地方創生策を巡り「自治体間で人や補助金を奪い合うことを奨励し」「疲弊した地方に拍車をかけた」と批判。統一選は「国からのお仕着せでない政策を提示すべき時」だとした。

 加速する少子化に関し、河北は「このままだと、いずれ地域社会は消滅」すると憂慮。秋田魁も「静かな有事が進行中」だと危惧し、4月発足のこども家庭庁に歯止めを期待した。「創造的過疎」との発想を提起したのは神戸。移住にこだわらず「一人が複数地域に関わるなど『人』を循環させる仕組み」があれば、「人口は減っても希望を失わず歩み続ける人がいる限り、町が消滅することはない」と強調した。

 昨年の出生者数が初めて80万人を下回ると予想される中で、山口は防衛費を「大盤振る舞い」する一方、社会保障や子育て支援の政策が「全く不十分なままだ」と指摘。「教育費の増額は将来の人材を育成する点から欠かせない」と論じた。

 自県誕生150年の節目に、地域の歴史を振り返った社もあった。「郷土愛を深めることで」「希望の種」がまかれると千葉。愛媛は人口減を「緩やかに押しとどめながら、それに見合うよう社会の仕組み」を再構築しようと訴えた。

ニュース15紙、企画・連載56紙

 【1面トップ】15紙がニュース、42紙が企画、14紙が連載でスタートした。ニュースと連載の主な見出しを拾う。

 《ニュース》山形「鶴岡土砂崩れ 夫婦不明 集落の裏山 幅100メートル 約10棟倒壊、2人救助」、中日「養護教諭増 9割超『必要』 本紙 教委調査 子の問題多様化」、神戸「神戸空港へ新地下鉄構想 三宮直結 国際便就航見据え」、熊本日日「TSMCやソニー 半導体工場向け 竜門ダム未利用水 活用 県、地下水保全へ検討」、南日本「女性管理職9・3% 県内市町村 8年連続九州で最下位 22年度」。

 《1面連載》北海道「ポストコロナへの羅針盤」、岩手日報「まだ見ぬ景色へ――ボーダーレス新時代」、下野「アカガネのこえ 足尾銅山閉山50年」、新潟「掘り出した価値 輝ける島へ 佐渡・世界遺産の行方」、北日本「とやま再起動 人口減とともに」、京都「デジタルな私たち」、宮崎日日「この地で生きる 中山間地域のいま」。(審査室)

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