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2025年 6月10日
消費者視点の欠如批判 コメ問題巡る農相失言・更迭
後任・小泉氏に期待と不安
コメの価格高騰が続く中、「コメは買ったことがない」などと発言し批判を招いた江藤拓農相が辞任に追い込まれた。各紙の社説・論説は、担当閣僚にあるまじき発言として江藤氏を批判するとともに、石破茂首相の任命責任なども問うた。後任の小泉進次郎農相には期待と不安視する声が相半ばした。 神奈川は江藤農相の更迭について、コメ価格の高騰に苦しむ消費者の心情を逆なでする問題発言の責任を取ったものだとし「価格抑制を実現できない閣僚自らの失言は国民の信頼を著しく損なった。辞任は当然だ」と突き放した。東奥も「少しでも安価なコメを探し回る国民の感情を逆なでし、担当閣僚としてはもちろん国会議員の資格さえ疑われた」と指弾した。
北日本は「備蓄米を放出すれば価格は安定していくとの見通しを語る場面もあった。こうした楽観的な姿勢が、対応が後手に回る要因とならなかったか。辞任を招いた発言を聞けば、消費者に寄り添う姿勢も足りなかったと言うしかない」と断じた。徳島も「農政通の2世議員である江藤氏の失言は、農政に消費者の視点が欠けていたことを示したとも言える」とした。
首相の任命責任も問う
批判の矛先は、石破首相にも向けられた。岩手日報は「閣僚の資質を欠く人物を農相に任命した」責任が厳しく問われようと指摘。静岡は「舌禍の報道後、首相は即座に更迭すべきで、判断が遅れたと言えよう。首相自身、コメ対応の重要性を深く考えていないと指摘されても仕方がないのではないか」と主張した。中日・東京は、首相が更迭方針に転じたことについて、野党各党が農相不信任決議案を衆院に提出する方針で一致したからだとし「野党に追い詰められるまで発言の重大性を理解できず、少数与党の政権として甚だしく緊張感を欠く」と指摘。毎日も「政権の緊張感は乏しく、野党の動きをみて慌てて方針転換した。過去の『自民1強』時代の緩みが抜けていないのではないか」との見方を示した。
高知は、失言の根底に自民党の体質もあるとみて、「『自民1強』が長く続いたことによる緩みやおごりはないのだろうか。世襲議員が多数を占める弊害が出ている可能性もある。人材育成や発掘は機能しているか。自民は党運営を改めて振り返るべきだ」と強調した。
石破氏が後任農相に小泉衆院議員を充てたことについては見方が分かれた。朝日は「自民の農政は伝統的に、生産者団体の意向を重視してきた」としたうえで、「消費者、生活者の目線での改革を持論とする小泉氏が、米価高騰の収束やコメ政策の見直しで結果を出せれば、政権と国民との距離を縮める」ことにつながるとの期待を示した。北國も「小泉氏は自民党の農林部会長を務めるなど、農政分野に詳しい。既得権益の抵抗を押し切って、政策の大改革に取り組んでほしい」とエールを送った。
北海道は「小泉氏は自民党農林部会長時代に農林中金や補助金の改革を掲げたが、激しい抵抗に遭い尻すぼみに終わった。実行力には疑問符が付く」とし、「首相が政権浮揚のため知名度の高い小泉氏を起用しただけなら、この難局は乗り切れない」と指摘。産経も、小泉氏の起用について「自民党農林部会長の経験者で、農協改革を唱えたことがある。だが、特筆すべき成果をあげたとは聞かない。農政通とも思えない」と疑問を呈した。
価格高騰対策に注文も
河北は、備蓄米売り渡し後の流通コストについて、「卸売業者が小売りや中・外食業者に販売する際の上乗せ額は通常のコメに比べ最大3.4倍もあった」としたうえで、「現状の高値は、決して生産者やJAグループに法外な利益をもたらしているわけではない。民間の取引に行政が介入することは本来慎むべきことだろうが、こうした中間マージンの実態にもメスを入れなければ、早期の価格低下は望みにくいのではないか」と流通問題に取り組むよう訴えた。
信濃毎日は、価格の引き下げをまず目指すべきだと主張。「ただ、行き過ぎれば逆に暴落を招く恐れもある。中長期の視点を含め、消費者と生産者がともに納得できる価格での安定供給をどう実現するかが問われる」とした。読売は「まず緊急措置として輸入を拡大する必要があるのではないか」と提案した。
神戸は、価格高騰の背景に長期的な供給不足への不安があるとし、「政府はコメ政策を刷新し、主食の安定供給と、担い手の所得水準の向上を両立させなければならない」と強調。日経は「中期的には政府備蓄の増強や担い手確保、生産インフラの維持などに取り組む必要がある。気候変動で生産が不安定になっており、需要に合わせて生産を調整する手法も難しくなっている。コメの余剰ではなく、不足を防ぐことに重点を移すことがテーマになる」と訴えた。(審査室)