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2025年 7月8日
根深い分断克服が急務 韓国新大統領に李在明氏
日韓関係の安定継続求める
韓国の大統領選で革新系政党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前代表が勝利し、新大統領に就いた。国会に兵士を投入するなど「非常戒厳」による混乱で罷免された保守系の尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の後任となる。喫緊の課題が韓国内の分断の修復にあることは論をまたない。その上で各紙の社説・論説は、前政権下で改善した日韓関係の安定的な継続を求める声が相次いだ。
融和に向け指導力問う
朝日は韓国の内政問題に焦点を当てた。「根深い分断を癒やし、融和への指導力を発揮できるか。格差の是正や暮らしの改善という切実な期待にこたえられるか。その責務は重い」と書き出した。毎日も「半年間に及んだ政治空白にようやく終止符が打たれた。一日も早く政治の安定を取り戻すことが求められる」とし、「急がれるのは、深刻さを増す党派対立と分断の克服である」と指摘した。
中日・東京も「李新政権は、韓国の民主主義立て直しと、深まった国民の分断克服を急がねばならない」と強調。李氏は就任演説で「分裂政治」を終わらせると宣言したが、そのためには「異なる意見にも耳を傾け、自らに投票しなかった有権者をも包摂する丁寧な政権運営」が必要だとした。
今回の政権交代で、政権与党と国会の多数派が異なる「ねじれ」の問題は解消した。その分、「非常戒厳以降の国政の混乱はひとまず落ち着くことが期待できよう」(静岡)との見方は多い。ただ徳島や熊本日日などが指摘するように、李氏が公職選挙法違反など五つの刑事裁判を抱えている点は不安定要素だ。「今後の司法手続きが政権運営を左右する可能性」(北日本)もあり、動向から目が離せない。
日韓関係も極めて重要なポイントだ。国益を重視する「実用主義」の外交方針を掲げる李政権に対し、読売は「韓国の新大統領が日米との連携を重視し、現実に即した外交・安保政策を実行することを期待する」と書いた。
ただ前政権が元徴用工訴訟問題で日本側に歩み寄った際、これを「対日屈辱外交」だと厳しく批判したのは李氏だったことも忘れていない。大統領選では日本を「重要な協力パートナー」と呼んだ李氏だが、「今後、再び対日強硬姿勢を強めるのではないかという懸念は拭えない」と慎重な見方を示した。
産経は警戒心を隠さない。まず李氏が親北・反日傾向が強い革新系政党の前代表である点を指摘。「堅固な韓米同盟を土台に韓米日協力を強固にする」と述べた就任演説に対しても「本当にこれに沿った政策を進めるのか、懸念を抱かざるを得ない」と手厳しい。見出しでも「慰安婦問題を蒸し返すな」とクギを刺した。
北海道は「韓国は大統領選で保守と革新が入れ替わるたびに、路線転換を繰り返してきた」ことを不安視する。李氏は安全保障や経済、人的交流などの分野で対日協力を深めると約束した一方、「歴史や領土問題では毅然(きぜん)と対応するとも表明しており、先行きは見通せない」(京都)というのが多くのメディアに共通した認識ではないか。
ではどうするか。東奥や山梨日日、大分合同などは「相手の出方を待つだけでは不十分だ」との立場から、日本政府は「新政権との安定した関係構築に向け、能動的に関与していく姿勢が求められる」と説いた。その際、「李政権に対する過度な期待も警戒も避け、現実的な関与を図る」ことに留意すべきだとした。
愛媛は「日本からも、岸田(文雄)前政権時に復活した首脳の相互訪問『シャトル外交』の再開を呼びかけたい。立場の違いを乗り越えるものは粘り強い対話以外にない」と提案した。日経も、両政府は「知恵を出し合って未来志向の取り組みを拡大すべきだ。石破茂首相も首脳シャトル外交を急ぎ信頼関係を築いてもらいたい」と注文した。
連携の輪 世界に拡大を
トランプ米政権による高関税政策や台頭する中国製品への対応など、日韓で共通する経済課題は多い。信濃毎日は「トランプ政権の高関税政策にも足並みをそろえて対峙(たいじ)し、公正な貿易体制を構築するために協力を深めるべきだ」と訴える。
日刊工業も「『環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定』(CPTPP)をはじめとする多国間連携の加速は、米国の関税政策に対する対抗策になる。まずは日韓が、そしてアジアが協調しながら連携の輪を世界に広げたい」と自由貿易体制の維持・拡大を呼び掛けた。
2025年は戦後80年、日韓の国交正常化から60年の節目に当たる。高知は今や「日韓の人的交流は厚くなり、若い世代を中心に旧来の関係を乗り越えたつながりも生まれている」と言及。「国交正常化60周年であり、多分野での連携を深めて関係を深化させたい」と結んだ。(審査室)