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2025年 8月5日
判決評価 国に猛省求める 生活保護減額は違法と最高裁

政策決定の過程検証が必要

 国が2013~15年に生活保護費を引き下げたのは違法だとして、受給者が国と自治体に減額処分の取り消しなどを求めた訴訟で、最高裁第3小法廷は、違法と認めて処分を取り消した。厚生労働省が引き下げの根拠とした物価下落を反映する「デフレ調整」に関し「裁量の範囲の逸脱、乱用があった」と判断した。各紙の社説・論説は「『最後のセーフティーネット』とされる生活保護の役割を重く受け止めた、画期的かつ意義のある判決だ」(琉球)などと評価し、国の姿勢を問題視する意見を掲げた。

不合理な基準変更問題視

 沖タイは「最初の提訴から11年余り。司法を動かしたのは、生活保護制度という『最後の砦』を守ろうと立ち上がった当事者の重い訴えだ」と原告らをねぎらった。愛媛は「国は熟慮を欠いた判断によって受給者の生活を脅かしたことを猛省せねばなるまい」と強調した。

 「デフレ調整」に関し新潟は「不合理な基準変更は、困窮する人たちをさらに追い詰めかねない。判決が、専門性の高い審議が必要だとしたのは当然だ」とし、高知は支給基準改定に国の裁量権があることを判決も認めているが、それは「専門技術的かつ、政策的な見地から」だとして「裁量権の重さを鑑みれば、プロセスにも合理性が求められる」と断じた。

 同種訴訟は全国で計31件起こされ、地裁、高裁では判断が分かれている。北日本は「行政訴訟で国や自治体の敗訴が相次ぐのは異例のことだ。最高裁の統一判断を待つまでもなく、国は司法の警鐘に耳を傾け、基準額を元に戻すべきだったのではないか」と主張した。

 中国は「判決を直視して生活保護の本来の役割を肝に銘じるとともに、減額に至る過程で何があったのかを厳しく検証すべきだ」と提起。西日本も制度がゆがめられた政策決定の経緯について「外部の有識者による検証と、責任の所在の明確化が不可欠だ」と述べた。

 当時、野党だった自民党が「10%引き下げ」を公約に掲げ、政権に復帰した直後、国が減額を明言した。読売は「結論ありきの減額処分で、算定がゆがめられた疑いはないのか」と疑問を呈し、日経も「政権与党への忖度から『削減ありき』でつじつまをあわせたとすれば、制度の根幹が揺らぐ」として自民党の責任も重いと言及した。

 受給者に関し信濃毎日は、既に亡くなった原告も多いとして国に対し「訴訟を早期に終結させ、減額分を支給するとともに、制度のゆがみを正さなくてはならない」と訴えた。熊本日日も「原告のみならず、当時の受給者に対して減額分を支給するといった被害の回復に努めなければならない」とした。

 支給額に関し岩手日報は「本年度の生活保護費は、物価高特例の1人当たり月千円加算に500円を上乗せしただけにとどまる。これほどの物価高で到底、暮らしていける増額ではない」と批判した。

 一方で産経は判決が違法としたのは減額の手順や過程であり減額そのものではないとして「保護費が一般的な低所得世帯の消費水準から乖離していないかを、常にチェックすべきである」と主張した。

報道の在り方に自戒を

 保護費の利用しづらさを指摘する社説も複数あった。京都は給付対象者の2割程度しか利用していないという捕捉率の低さを挙げて「保護費の4分の1を負担する自治体による申請の門前払いや辞退への誘導、周囲の圧力などが指摘されて久しい」と述べる。

 下野や岐阜、日本海などは保護費を1日千円ずつ手渡したり、一部を不支給にしたりしていたことが23年に発覚した群馬県桐生市の事例を紹介。中日・東京も「利用者に対する社会の偏見や申請を拒む自治体の水際作戦で、貧困に陥っても生活保護を実際に利用する人は少数とされる」と苦言を呈した。

 生活保護基準は中国残留邦人やハンセン病療養所入所者の家族らへの支援基準になり、これらも不当に減額された恐れがあるほか、保育料や介護保険料などの減免基準額に準用されている可能性を挙げ、神戸は「影響の全容を明らかにしてもらいたい」と要求した。

 生活保護引き下げのきっかけは、人気お笑い芸人の母親が約15年間、生活保護を受給していることが明らかになり、制度の在り方が問題視されたことだった。この「生活保護バッシング」について触れた社もあった。朝日は「『働けるのに保護を受けたと聞いた』など、街頭の声を集めて、裏取りもせずに流す報道が横行した」としてメディアの在り方に言及。同じことをくり返さぬよう自戒が求められると強調した。

 毎日は生活保護について「施し」ではなく「全ての国民が安心して暮らせる社会の土台」だとし、北海道は「誠実な制度運用」が厚労省に求められると述べた。(審査室)

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