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2025年 12月9日
共生の輪広げる契機に デフリンピック 日本で初開催
デジタル技術 有効活用に言及
日本初開催となる聴覚障害者の国際スポーツ大会・デフリンピックが東京を中心に開かれた。耳が聞こえない、または聞こえにくいアスリートが世界約80の国・地域から参加した。パリで第1回大会が開かれてから、100周年の節目でもある。各紙の社説・論説は、最高峰の舞台に挑む郷土勢にエールを送るとともに、ろう者とろう者以外の人の相互理解を深める契機になると論じている。
岩手日報は「排除から共生へ。近年、障害者観は前向きに変化してきた」と述べ、「静けさの中の豊かさが、私たちにさまざまな気づきをもたらす」と説いた。南日本は「聞こえる人と聞こえない人との間にある壁を取り除くきっかけとなってほしい」と期待を寄せる。北海道は「大会は手話の普及を促進するなど社会的意義が大きい」とし、「重要なのは一過性で終わらせず、誰もが住みやすい社会を追求し続けていくことである」と強調した。
多様性認め合う社会へ
神奈川が「一見すると競技そのものは見慣れているものだが、音がない中でのアスリートのプレーによって、耳が聞こえないことの不便さや大変さを知り、競技を超えてバリアフリー社会の実現に向けて新たな視点をもたらしてくれる」とし、毎日も「デフリンピックには、障害者が感じる『壁』を取り払うためのヒントがある」と記し、「それを日常生活に生かし、誰もが暮らしやすい社会の実現へ向けた歩みを進めたい」と呼び掛けた。また共生社会に向け、静岡の「多様性を広げ柔軟に受け入れる寛容さも重要だ」や、西日本の「耳が聞こえないこと、聞こえにくいことも多様な個性の一つ」、高知の「多様性を認め合う社会へさらに歩みを進めたい」との指摘もあった。
山形、茨城、下野、岐阜などは「身体障害者手帳を持つ在宅の聴覚障害者は約31万人。施設入所者は含まれず、手帳を持たない人もいる」と現状を示し、「手話でやりとりする人を街で見ることがあっても、ろう者の実情は知られているだろうか」と疑問を呈した。日本海は手話言語条例先進県・鳥取の歩みを踏まえ、「ろう者とろう者以外の人の相互理解を深める社会づくりを率先して進めてきた」とし、「共生の輪を一層広げる契機としたい」と強く求めた。山陽も手話を言語として尊重し、使える環境づくりを自治体に促す条例が岡山県内全域で成立していることを紹介し、「大会はそれらを推し進めるきっかけにもなるはずだ」と主張した。愛媛は手話施策推進法が超党派の議員らによって提出されたことを踏まえ「本来、政府として推進するのが当然の施策ではないか。これまで置き去りにしてこなかったか、真摯に顧みるべきだ」と厳しく断じた。北日本は海外事例に触れ、「2009年にアジア初の大会を開いた台湾では、大会後、教育や日常生活の面で聴覚障害者を取り巻く状況が大きく改善された」と伝え、「日本でも大会と法の施行をその契機としていかなければならない」と強調した。
福島民友は福島県がデフサッカーの会場であることに焦点を当て、「観戦などで多くの聴覚障害者が本県を訪れ、駅などの公共施設や飲食店などを利用する」とし、「たとえ手話ができなくとも、表情や動作、口の動きなどで気持ちを伝えることができる。積極的に交流するなどして温かく迎えたい」と呼び掛けた。
新潟は「デフリンピックはコミュニケーションの祭典」と選手の声を紹介し、日経は認知度について「開幕を迎えればさらに高まるだろう」と期待した。山陰中央、佐賀、長崎、宮崎日日などは「大会は共生社会の意識を高めるチャンス」と述べ、沖タイは「ろう者が歩んだ歴史と手話への理解を深める機会にもしたい」と提言した。
手話通訳付きのニュースを
京都は「手話通訳者の不足は長年の課題である」と取り上げ、中日・東京は災害報道の観点から、「テレビ各局は、手話通訳付きのニュース番組などを増やすべきだ」とメディアの在り方に言及した。
デジタル技術の積極的な活用も今大会の特色である。徳島は「選手や観戦に訪れた聴覚に障害のある人の利便性を高めるものだが、健聴者にとっても得られるものは大きい」とし、東奥は具体的手段として「手話ができなくても筆談や音声を文字に変えるスマートフォンアプリなどを活用する方法もある」と提案。産経は情報技術の重要性に触れ、「先端情報を使った視覚情報の確保は、障害の有無にかかわらず暮らしやすさにつながる」と述べた。朝日は「デジタル技術も進み、意思疎通の壁は低くなりつつあるが、大切なのは社会が関心と理解をより広げ、深めることだ」とくぎを刺した。読売は「まずは両者が、進んで意思疎通を図ろうという気持ちを持つことが、共生社会を作っていく原動力になるに違いない」と結んだ。(審査室)



